平林光明(放送を語る会・大阪)

   ”報道のTBS”の底力を感じた  TBS NEWS23 3月11日放送

 

  午後11時という遅い時間帯で、一般的に1日の出来事の総まとめ的な意味合いもある時間なので、総花的にならないかと心配したが杞憂だった。22分の項目時間のうち最初の7分で、各地の様子と短いインタビューをつないだ。  「阪神淡路」の10年は節目ともいえる復興状況だったが、東北は単なる通過点で、9年目も11年目も何も変わらぬ1日だ」という気持ちがよく伝わった。この中で政府主催の追悼式で菅首相が述べた「被災地の復興まちづくりがおおむね完了するなど復興の総仕上げの段階に入っている」という式辞には開いた口が塞がらなかった。これなら天皇の「今後とも被災地の方々の声に耳を傾け、心を寄せ続けていきたい」という「おことば」の方がよほど人間的だった。

話が少し横道にそれたが、番組は前半のフラッシュの後、後半は、判断を誤り児童・教員84人の犠牲者を出した、宮城県石巻市の大川小学校の事例に焦点を絞った。隣町女川町で中学教員をしていて、大川小で次女を亡くした父親に的を当て、震災後の活動を追った。父親は4年後に教員を辞め、語り部として根拠のない過信を戒めている。その言葉の1つ1つが胸に沁み込んだが、曜日コメンテーターの星さんが「この10年我々は震災・原発・コロナなど、未曽有の体験をしてきたが、共通しているのは根拠のない楽観論が非常に深刻な問題を引き起こしている」と警告を発していたのが、現在の状況にも引き合わせて印象に残った。星さんは故・岸井さんの後を継いで番組コメンテーターになったが、自己抑制なのか忖度なのか今一つ鋭さが無くがっかりしていたが、この日は冴えていた。別項目のNTTによる接待問題でも「菅首相は政権運営に政治主導を貫いているが、官僚より大きな権限を持っている政治家の規律を、明確に示す必要がある。これが出来るかどうかが、今後の政権を左右する」と、官僚より甘い政治家の規律を問題にしていた。大震災の切り口と合わせ、“報道のTBS”の底力を感じた。