平林光明(放送を語る会・大阪)
  関西テレビ  Mr.サンデーSP「宮古市を襲った5つの津波」 3月7日午後9時~10時放送

 民放キー局5局とNHKで作る「民放NHK防災プロジェクト」が、大震災10年に当たり、それぞれが保有している当日の映像を持ち寄って、フジテレビが制作したドキュメント。岩手県の宮古市に的を絞った映像をまとめたら、各局撮影分だけでなく、公共機関や住民が撮影したものを合わせて、36台のカメラに収録された映像が集まった。それを
積み上げて分析する中で、初めは小さい波が重なり合って、予測を上回る巨大津波に成長するメカニズムが見事に再現された、貴重なドキュメンタリーになった。宮古湾は複雑な地形で湾が深く入り込み、津波が大きくなる特徴がある。浜や川が干上がる引き潮に始まり、20センチ程度の小さい第1波がやってきた。住民も避難を躊躇する様子がうかがえたが、間もなく5方向からの波が湾に押し寄せ、「盛り上がる津波」となった。高台から見えたその様子は
海に近い住民ほど、高い堤防に遮られて目に入らない「隠れる津波」となり、初動を遅らせた。5つの波がぶつかりさらに勢いを増す「沸き立つ津波」となって、街中深くに襲いかかる。そして障害物や山にぶつかり「跳ね返る津波」となって、山に逃げる住民に襲いかかる。「津波に追われながら逃げていたら、前からもっと大きい津波がきた」と振り返る住民の驚きがそれを物語る。物凄い映像の連続に慄然とした。宮古市には高さ17.5メートルもある堤防が2重に張り巡らされた、田老地区がある。 私も震災以前にこの堤防を下から見上げ、まるでモンスターのような驚きを覚えた。住民もこのモンスターに頼る気持ちがあっても不思議ではない。人間の知恵など自然の猛威の前には無力なことを思い知らされた。珍しく地震が起きた時の映像があったが、私たちが千葉県でとったと同じように、人々が道路の中ほどに集まり、揺れに耐えていたシーンがあった。その時は家屋にも被害が無く、人々も無事な様子だったのを見て、改めて津波さえ無ければ…という思いを強くした。
こうした民放とNHKが協力する有意義なプロジェクトを、今後も続けてもらいたい。
 余談になるが、民放でドキュメンタリーを見る機会がほとんどないため、度々入るCMに興をそがれたが、今回に限っては余りに強烈な映像の連続に、頭を休める時間をもらえたと言えるかも知れない