平林光明(放送を語る会・大阪)  

   NHK総合  NHKスペシャル 徹底検証 “除染マネー”  3月10日放送

 

 大震災10年で集中制作された番組の事前リストの中で、最も注目したのがこのNスぺだった。所用が立て込んで報告が遅れたが、この間に東京の今井さんからは、詳細な内容紹介と絶賛するコメント、大阪の竹中(美)さんからは、女性らしい着眼点の感想が上梓されていた。私も労作だと評価する一方で、やや物足りなさも感じた。これが遅ればせながら原稿を上げることにした理由である。

 古来、巨大公共事業には利権をめぐるきな臭い匂いが絶えない。直近でも、辺野古埋め立て事業、リニア新幹線建設事業など、枚挙にいとまがない。原発マネーでも福井県高浜町の元助役が、関電・町当局を手玉に取り、権力と利権をほしいままにしていた事件が記憶に新しい。

 この番組でも降ってわいた除染事業が、大型公共事業の経験豊かな国交省や経産省が、最後に残る放射性廃棄物の処理を嫌い、経験の無い環境省に事業主体を押し付けた、出発点の構造的な問題を明らかにしている。その結果環境省が大手ゼネコンに頼らざるを得なくなり、利権の温床となった経過がよく解った。

その結果が竹中さんが指摘していた、住みよい故郷に戻したいという地元の業者の善意が、金にまみれて失われ、元受けの大手ゼネコンの手駒のように、使い捨てにされる悲劇を生み出して行った。これは氷山の一角で、似たような話はいくらでもあること、何よりゼネコンなどの真の狙いは、未来永劫続くと思われる廃炉事業に食い込むことなど、政・官・財の癒着の構造に迫ると期待していた。

 しかし後半は、除染を期待して裏切られた福島の住民たちの話に移った。確かにこの問題も大事なテーマであり、中間貯蔵施設や仮設焼却施設など、何倍にも膨れ上がる“除染マネー”の無限さを表していたが、帰還困難地域の問題は、これだけで1項目立ててもいいような内容ではないかと思った。

 環境省元事務次官や自民党対策本部の額賀本部長など、キーマンを含む100人余りに取材した力作だけに、政・官・財を含む利権構造に、もう少し食い込めたのではないかと期待したが、やはり無理な注文だったのだろうか。